前回に引き続き、不登校の誤解についてです!
不登校に関する誤解は色々ありますが、こんな声もよく聞きます。
「学校に行きたくない理由を言わない」「何が嫌なのか分からない」のに「休みたい」「お腹が痛い」とばかりいう。
それはズル休みをしたいだけなのではないか。現に、行ったら行ったで「楽しかった」といって帰ってくることもある。
子供の言うことをどう受け取ったらいいのかわからない。
今回は、このことについて考えてみたいと思います。
この記事の内容
1.不登校の誤解② 学校に行けない理由を言えない=理由はないの?
中学生対象の「不登校傾向にある子どもの実態調査」(日本財団、2018年)によると、「学校に行きたくない理由」として多かったのは、次のようなものでした。
- 朝、起きられない
- 疲れる
- 学校に行こうとすると、体調が悪くなる
- 自分でもよくわからない
これらに対して「朝起きられないなんて、だらけてるだけだ」「嫌なことから逃げていたら、逃げグセがつく」「いじめられてるわけでもないのに、甘えている、わがままだ」という人もいます。
しかし、学校に行かないことは、法律違反でもないし、本人の自由です。
(【不登校の誤解1参照】)
これらの理由はなんだか漠然としいて、「根性、気力でなんとかしろ」と言いたくなってしまうかも知れません。
しかし、本当の問題は、
- 「なぜそんなに疲れているのか」
- 「なぜ学校に行こうと思うと体調が悪くなるのか」
です。
言い換えるとこれらは、本当の「行きたくない理由」ではなく、そこから現れている症状です。
では、本当の理由は何なのでしょうか。
おそらくそれは「自分でもよくわからない」というのが、子どもの実感であることが多いのだと思います。わからないから、症状を訴えるしか無いわけです。
2.理由が「わからない」と「ない」は違う
「自分でも理由がわからない」というと、「理由がない」と早合点されることがありますが、「ない」のと「わからない」は似て非なるものです。
「わからない」のは、本人もうまく言葉にできない状態であり、それはとても不快な感じだと思いますし、自分でもわからないからこそ、本人も困っているわけです。
また、自分では分かっていても、言いにくいのかもしれません。
「いじめられていると言ったら、親に心配をかけてしまうかもしれない」、そんな優しさから言えないのかも知れません。
そういう場合、別の理由(ゲームがやりたい、おなかが痛い、など)を言うこともあります。
また、いじめれていた場合、しんどい状態で思い出すと、つらい記憶がフラッシュバックしてしまうこともあります。
そのため、理由を聞いても話したがらない、言いづらそうにして答えない場合は、「言いづらい何かがあるんだな」とだけ受け止めて、無理に聞き出さずに、休ませてあげることも大切です。
3.「なぜ学校に行けないの?」と聞くのが良くない理由
そもそも、学校を休みたがっている子に「なぜ行けないの?」と尋ねるのはよくないと言われます。
大人や支援者としては、その子を理解しようと思って、一番聞きたいことが「なぜ?」という理由なので、つい尋ねてしまいがちです。
なぜこの問いがよくないのでしょうか。
一言で言えば、「いきなり核心に迫りすぎるから」です。
この「なぜ?」「どうして?」という問いかけは、前後の文脈や、語勢などによって、そんなつもりはなくても、相手を問い詰めたり、叱責の雰囲気を容易にまとってしまいます。
「なんで出来ないの?」
「なんでいうこときかないの?」と言われると、問い詰められる感じがしますよね。
精神科医の神田橋條治先生は、この「なぜ」という問いを考察され、「なぜ」と問うのは「危険な賭けであると感じるようになった」とまで言われています。
この問いは、あるときは素晴らしい新鮮な話を患者からひきだし、あるときは患者を沈黙においこみ、あるときは混乱させた。
(神田橋條治著、「精神科診断面接のコツ」、1984年、岩崎学術出版社【1】)
子どもは学校を休むと「学校を休んでいる自分」を後ろめたく感じることがほとんどです。
多くの子たちと同じように出来ない自分、
親や先生に心配をかけてしまっている自分。自信を失うと、自分の意見なんて聞いてもらえないんじゃないか、と色々なことに不安を感じるようになります。
学校を休みたい本当の理由を打ち明けても、「『そんなことで?』と分かってもらえなかったらどうしよう…」と強い不安を抱えていたりします。
話を聞いてくれるか、理解してくれるかわからない相手に、「なんで休みたいの?」と聞かれても、そう簡単に信用できなくて当然です。
これは「これ以上傷つきたくない」という防衛本能であり、自分を守るすべです。
「なぜ?」という問いの重みが、問いかける側と、問われる側でズレが生じやすいことは、よく知っておかねばと思います。
3.不登校の理由を自分でもうまく言えなくても、いろいろ考えられること
学校に行きたがらない理由は、詳しく聞き出さなくても、それまでの言動から想像できることもあります。
今までは教室や部活の不平不満をいろいろ言っていたのに、急に言わなくなり、問題は解決したのかなと思っていたら、どんどん元気がなくなってきた、というケースもあります。
問題が解消したのではなく、不満を訴える元気もなくなってきていた、ということもあるのです。
あるいは、特にHSCに多いのは、「教室にいるだけでなんだか疲れる」というものです。
席が前の方だと、後ろからの視線が気になって、授業に集中できない、という子もいます。(参照:2-3.周りの人がかぼちゃに思えますか?)
また、教室は多くの人が密集している空間です。別に聞き耳を立てているわけではないのに、様々な方面からの話し声が聞こえてきて、受け取る情報が多すぎて、疲れる、という場合もあります。
自分ではなぜ疲れるのかわからない、というHSCに多いと思います。
また、小さい子や、敏感・繊細な子(HSCやASD)は、「先生が怖い」「●●くんがこわい」ということもあります。
「どうして怖いと思ったの?」と聞いてみると、声が大きいとか、怒鳴るとか、自分じゃなくても特定の子を執拗に怒る、などと話すことがあります。
4.まとめ
以上のように、本人が話しをしたがらなかったとしても、これらのような可能性があることを知っておくと、休ませたほうが良いのかな、と保護者の方も思いやすいのではないでしょうか。
そして、言葉にしなくても「休みたい」という希望を受け入れてもらえた子は、その後安心して休みやすいはずです。
社会では条件付きの交渉が普通ですが、家族は「無条件に受け入れてもらえる」という安心感が、私達の存在の自信を支えてくれます。
- 「理由を言いたくないこともあるよね」
- 「言えないほどの何かがあるんだね」
とだけ声をかけてもらえたら、不安を抱えやすいHSCも、休みやすくなるのではないでしょうか。
子ども時代を安心して生きていける子たちが増えることを願っています。
【参考文献】
【1】神田橋條治著、「精神科診断面接のコツ」、1984年、岩崎学術出版社