頭よりも身体のほうが賢い?ポリヴェーガル理論とは?

「休むことが大切」とは言われても、現代は、休むのも中々難しいことを、何回か書いてきました。

そのメカニズムが、自律神経にあることが近年の研究でわかってきています。

ポリヴェーガル理論(多重迷走神経理論)」と言われます。

難しい専門用語はなるべく省略して、説明してみたいと思います。

1.頭よりも身体のほうが賢い?ポリヴェーガル理論とは?

高木英昌
児童精神科医です。自分を知ることで楽に生きられる人が増えることを願っています。

私達の身体は、ある程度元気なときは、日中は活動モードで頑張って、夕方から夜にかけては休息・リラックスモードに切り替わります。

そうやって、アクセルとブレーキをちょうどよく使い分け、活動と休息・回復をしながら過ごしています。

これらは、交感神経と副交感神経という、自律神経として知られています。

しかし、何らかの事情で頑張っても中々対処できなかったり、緊張や警戒心が解けない「しんどい状態」が慢性的に続くと、休むに休めなくなってきます。

そして「これ以上はもう頑張れない」というところまで行くと、身体(神経)が防衛本能として反応して自分を守ろうとします。

リラックスという心地よい休み方ではなく、強制シャットダウンのような休み方になってしまうのです。

この状態は、頭(理性)の判断ではなく、身体(自律神経)が判断すると言われています。

ストレス状態に応じて、自律神経に3つの段階があるのです。

  1. リラックスモード
  2. 活動モード
  3. 強制シャットダウンモード(凍りつき反応)

2.進化の名残としての凍りつき反応

私たち人間も、動物としての進化を遂げてきました。

魚類や爬虫類から進化して、哺乳類となり、集団で暮らすようになり、人間としての今があります。

このような進化の過程でさまざまな「動物としての本能」が受け継がれています。

敵が現れた時には、食べられてしまわないように、立ち向かって戦うか、一目散に逃げるか、を選択します。

交感神経が活性化して活動モードになり、心臓をドキドキ動かして、全身に血流を届け、筋肉を動かしたり興奮したりします。

そして、うまくやり過ごしたり逃げ切れたら、ゆっくり休んで体力の回復を図ります。

副交感神経は、ゆっくり休みながら食べ物の消化吸収を促し、睡眠をとったりして心身の回復させる方向に働きます。

しかし、戦っても勝てない、逃げても逃げ切れないという危機的な状態も有りえます。

そういうときは「死んだふり(仮死状態)をしてやり過ごす」という最後の手段をとることで、生き延びる方法を獲得してきました。

このような、立ち向かうことも逃げることも出来ないときは、ただ固まって動かないようにして、危機が去るのを待つ、という神経のスイッチが、進化の名残で人間にも残っていることが、分かってきました。

この状態は、いわば「凍りつきモード」あるいは「省エネモード」などと言われ、頑張って対処できる限界を超えたストレスがかかると、この状態に切り替わることで、身体が防衛本能として自分の心と体を守ろうとするのです。

3.「休む感覚」がわからないのはなぜ?

この凍りつきモードは、いわば急ブレーキであり、強制シャットダウン状態、仮死状態の名残であると書きました。

つまり、危険な状態の中でじっと動かない、固まっているような状態です。

そのため、呼吸が浅く、体温も低め、身体を動かさないで済むように代謝が落ちて、食欲も減り、やる気も落ちます。

それでいて、常に警戒しているため、周囲の音や人の目に過敏になったり、気を張り続けていて、不安を感じやすい状態です。

危険な状態でゆっくりリラックスしてはいられないため、表面的には休んでいても、緊張警戒がつづいて気持ちも体もイマイチ休めないのです。

この状態にあると、「安心という感覚がよくわからない」「ホッとする感覚が思い出せない」「体にいつも力が入っている」と言われます。

「ジャングルの中で、いつ襲われるかわからない緊張感の中で、なんとか休もうとしている」と思えば、「安心して休む」感覚がないのも、無理はありません。

学校や仕事を休んで、身体は横になっているのに、全然休んでいる感じがしない、という場合は、恐らく「サバイバルモード」にいるのでしょう。

4.まとめ~自分をいたわるために~

では、どうすれば安心して休めるのでしょうか。

それはまず、自分がサバイバルモードにいることを自覚して、自分を責める気持ちを少しでも減らすところから始めましょう。

大切なのは、今の自分を「変える」ことではなく、今の自分を「理解する」ことです。

サバイバルモードにいるということは、それだけ無理を重ねてでも頑張って、休むに休めず、限界を超えるまで休めなかったからです。

怠けているとか弱いからではないのです。

多くの場合は、体力的に疲れてきたらそこで休んで回復の機会を得ます。

倒れる前に休むのです。

しかし様々な事情で、休めなかったり、緊張警戒状態が長く続いて頑張り続けざるを得なかったために、頭よりも身体がSOSをだして、緊急シャットダウンせざるを得なかった。

それだけ頑張ってきたわけです。

つまり、自分を責めるどころか、自分をいたわり、休みが必要なことを理解することが大切になります。

そして、意識して「安心感、安全感」を感じられる環境を用意しましょう。

危険な環境ではなかなか休めないのは当然です。

また、客観的に危険かどうかも大切ですが、本人がどう感じるかが重要なので、そこは自分の感覚を信じて環境を選択しましょう。

最初は、自分の感覚を信じることに抵抗があるかもしれませんが、少しずつ慣れていくことは大切です。

そして「休もうと思って休む」練習をしてみてください。

 

【HSP/HSC】あなたは頑張ることと休むこと、どっちがラクですか?