自己肯定感が低い原因は親のせい?

「私はなんでこんなに自己肯定感が低いんだろう」「どうしてこんなに自分に自信が持てないんだろう」と悩んでいる人は少なくありません。

そしてそういう人ほど、自分の心が弱いからだ…と自分を責めてしまうこともよくありす。

また、幼い頃から否定ばかりされてきて、「親の育て方が悪かったからだ」「自己肯定感が低いのは親のせいだ」と思いつつも、そんなことを思う私はダメだ…と尚のこと自己否定に繋がっている人もよく見かけます。

では、自己肯定感が低いのは自分の心が弱いからなのでしょうか?親の育て方が悪かったからなのでしょうか?

今回はその辺を掘り下げて考えてみたいと思います。

1.自己肯定感が低い原因は親のせい?

1-1.過去に繰り返し言われた言葉が、あなたの自己肯定感が低い原因かも?

高木英昌
児童精神科医です。自分を知ることで楽に生きられる人が増えることを願っています。

自己肯定感が低い、自分のことが嫌い、と悩んでいる人は少なくありません。自己肯定感が低いと、「どうせ私なんて…」という心境になりやすいです。

そうすると周りの人からは「そんなネガティブに考えないで、もっとポジティブになればいいのに」などと言われて、ポジティブになれない自分が悪いのか…となおのこと落ち込んでしまったという話もよく聞きます。

ですが多くの場合、今現在ネガティブな人は、心が弱いからネガティブになっているのではなく、そういったネガティブな言葉を、子どもの頃に誰かに言われて育った場合が多いです。

それは親かもしれないし、学校の先生かもしれません。友達だったり、親戚の人だったり。一回言われたことが忘れられないこともありますし、くり返し言われていたなら、なおのこと心のキズとして残っていることもあります。

また、大人の顔色をうかがう繊細なタイプの子は特に、言葉ではなく態度からも少なくない影響を受けていることもあります。

心理カウンセラーのpocheさんは、著書の中でこのように言われています。

直接言われた記憶がないという人は、誰かの態度から「こう思ってるんだろうな・・・」と察した記憶がないかどうか探してみてください。大きなため息をつく、憐れむような目、悲しそうな表情、焦った顔、戸惑った顔・・・親の表情から、「自分は今どうすべきか」を察したことはないでしょうか。

例えば「この習い事をしたい!」といったときに、親の顔が一瞬ひきつったとしましょう。子どもは「あ、ダメそう」「高いからなぁ」「しまった!」「やばい、怒られそう」など、瞬時にいろいろなことを察知して、一番自分にダメージの少ない選択を考えます。

親子関係においては、相手から直接「ダメ」と言われていなくても、言われたのと同じくらい強い影響を及ぼすのです。」

(「あなたはもう、自分のためにいきていい」より引用【1】

虐待やいじめにあった訳では無いのに、どうして自分はこんなに自信が無いんだろう…と不思議に思う人はぜひこの本を読んで見てほしいと思います。

直接言われた記憶がなくても、察して記憶があるのではないでしょうか。

このように周囲の顔色を伺わざるを得ない状況で育った場合、【こうしなければならない】【これはダメだ】などの、決まり事がどんどん多くなっていきます。

そうすると、がんじがらめになってしんどいですよね。子どもの頃からそんなしんどい生き方をしていたら、今現在自己肯定感が低いのは当たり前かもしれません。自分がネガティブだから悪いんだ…と落ち込んでしまう人は多いですが、本当に自分が悪いんだろうか?と1度立ち止まって、子ども時代を振り返ってみるのもいいと思います。

1-2.自己肯定感は、親を含めた環境の影響を受ける

私たちは、良くも悪くも周囲の影響を受けながら育ちます。特に子どもの頃は、周りの人からの言葉を心の栄養として、発達していきます。それは「神経系」の発達として科学的な裏付け(ポリヴェーガル理論)もなされるようになってきました。

例えば、赤ちゃんが泣いているときは、親が笑顔で抱っこしてよしよししてくれると、親の落ち着いた気持ちが赤ちゃんに伝わって、子どもは「嫌なことがあっても、こうやって気持ちが落ち着くんだな」と少しずつ経験を重ねて、気持ちの落ち着け方を学んでいきます。

子どもは、あらゆる経験を血肉として吸収し、自分の中に取り込んでいきます。大人ならば、いいことは素直に受け取り、嫌なことは受け取らない、取捨選択もある程度できるかもしれませんが、子どもはよくも悪くも影響を大きく受けやすいのです。

トラウマセラピストの花丘ちぐささんはこのように言っています。

子どもはお手本と自分を照らし合わせながら成長していきます。望ましいお手本があり、一貫性があって、心地よく、信頼できるフィードバックを受けていくと、社会に適応し、健康行動のとれる、健全な社会人として機能する土台ができていきます。

ところが子ども時代に「痛いよ~」と訴えても「痛くありません!」、「つらいよ~」と助けを求めても「つらくなんてないでしょう!」などと返されたらどうなるでしょうか?あるいは「あなたのためだから」と言って不快な刺激をたくさん与えられたらどう感じるでしょうか?あるいは「お前など取るに足らない存在だ」とか、「お前よりもほかの兄弟や他の家の子の方が価値が高い」という暗黙のメッセージを始終与えられていたら、どうなるでしょうか?子どもは混乱してしまい、しっかりとした「自己認識」とバランスの取れた「世界観」を持つことが難しくなります。

こうした不適切な働きかけは不適切養育といわれ、発達性トラウマを引き起こす可能性があります。」

(「その生きづらさ、発達性トラウマ?」より引用【2】

幼い頃から、感じていることを違うと否定され続けたら、自分の感じ方が信じられなくなります。「つらいと感じる自分が弱いのか」「嫌だと感じる自分がわがままなのかな」などと悩むことにも繋がります。

やはり、自己肯定感は周りの人の言葉や態度、どんな人に囲まれて育つかなどの環境の影響が強いと言えると思います。

2.自己肯定感を育て直す第一歩は、自己否定してしまう気持ちを外在化すること

では、このような幼少期からの影響を強く受けているときに、自己肯定感を育て直すためにはどうしたらいいのでしょうか。

なんでもそうですが、まずは現状を受け止めることが大切です。親の不適切な関わりがあったと覚えているなら、「自分の自己肯定感が低いのは、親のかかわりの影響が大きかったからだ」と認めてしまいましょう。

自己肯定感が低いと、つい自分を責めて、親を含めて他人のせいにしてはいけないという気持ちが強くなりやすいですが、大切なことは「私が悪いんじゃ…」などという自己否定を一旦とめることです。

自分が悪いわけじゃなかった、そんな環境で本音を押し込んで我慢して生きてきたんだと気づくと、「自分も色々あったけど、そんな自分でもいいか、自分なりに頑張って生きてるよね」と思えるようになってきて、少しづつ自己肯定感が育ってきます。

これは一足飛びにはいきませんし、多くの場合はこのプロセスをたどるのです。

4.許せない親との向き合い方

自己肯定感が低いことを自覚して、育て直そうとする時、「親のせいする」のはありです。「本当に親のせいか分からない」という人もあるかもしれませんが、自己肯定感を育て直すときに大切なのは、客観的事実よりも主観(心的現実)です。

「自分がどう思っているか、どう感じたのか」ということを大切にすることが、自己肯定感そのものですので、「親のせいで」と思う所があるならば、そう思ってしまいましょう。

「そんな思い込みで親のせいにしていいの?親を恨んでいいの?」という疑問もあるかもしれませんが、大切なのは「自分で自分を責める気持ちを減らす」ことです。

自分を責める気持ちを「親のせい」にすることで、自己否定する気持ちを一旦自分から切り離すイメージです。これを「外在化」といいます。

「私なんて、自己肯定感が低くて、もうダメだ」と思っている自分から、「過去の親との関係があって、自己肯定感が低くなったんだな」と少し冷静に、客観的に自分をみられるようになると、だいぶ自己否定が減ってきます。

「『自分なんてダメだ』とまた思っちゃってるな」と、自己否定する気持ちを外在化するのです。

どうしても親への怒りがでてくるならば、その怒りは吐き出しきった方がいいかもしれません。その際は、親に直接気持ちをぶつけるのではなく、自分の中で表現するにとどめましょう。実際に親にいうと、気持ちを吐き出しきれないかもしれないからです。

「曲がりなりにも育ててもらった親を怨むとか怒るとか、そんなこといっていいのか」という反論もあるかもしれませんが、親だって完ぺきではありません。恨まれるようなことを一切しない親などいません。健全な親子関係は、うれしいことはうれしいと伝え合い、嫌なことは嫌だといえる間柄のはずです。親だからと言って一切の不満を言えない関係というのは、とても窮屈であり不健全です。

加えて、自己肯定感が低い時は、怒りの感情が出ないことがあります。ある時ふと怒りの感情が噴き上がってきて驚く人もありますが、怒りの感情を持てるということは、自己肯定感が育ってきた証拠なので、戸惑うと思いますが、自分の気持ちに素直に向き合って欲しいと思います。

また、「親を許した方が、あなた自身がラクになるよ」というアドバイスもありますが、少なくともいきなりは難しい場合が多いですし、ムリしない方がいいと思います。

「親を許せない自分が悪い」という悪循環にもなりやすいので注意が必要です。親を許すかどうかは、上記のようなプロセスを踏んだ、自己肯定感がかなり育ってきた最終段階の課題です。そして、親の呪縛から解放されてしまえれば、親を許しても許さなくても、それはどちらでもいいと思います。

自己否定が減ってくると、だんだんと親を責める気持ちも減ってくることもあります。親ではなく自分の気持ちを優先できること、親からの評価という名の呪縛から解放されたならば、「許す許さない」という気持ちそのものから自由になれるはずです。目指すべきは、そんな心境ではないでしょうか。

4.まとめ

子どもの頃の様々な事情で自己肯定感が低くなり、そのまま大人になったとしても、自己肯定感を育て直すことはできます。自己肯定感は親の影響を大きく受けはしますが、親に認めてもらえなければ自己肯定感が育たないわけではありません。

「もっと自分を大切にしたい」

その気持ちがあれば、きっと自分をもっと大切にできるようになります。ただそのためにはいくつかのコツや知識、そして自分を大切にしてくれる味方もいてくれるといいですね。そして、最大の味方は、自分ですので、まずはその「自分を大切にしたい」という気持ちを大切にしていただきたいと思います。

(親の影響が大きいと思われる方は、この記事でも紹介した「あなたはもう、自分のためにいきていい」を読まれることをお勧めします)

参考文献

【1】Poche著、「あなたはもう、自分のためにいきていい」、ダイヤモンド社、2022

【2】花丘ちぐさ著、「その生きづらさ、発達性トラウマ? ポリヴェーガル理論で考える解放のヒント」、春秋社、2020