自己肯定感は生きていくうえで大切なモノですが、特に人間関係に影響してきます。
そこで今回は、診療でもよく相談を受ける、恋愛/夫婦関係にどのように影響してくるのかについて考察してみます。
この記事の内容
1.自己肯定感を高める恋愛とそうでない恋愛の違いは?
自己肯定感は、幼少期からの親や兄弟、友達など様々な人の影響をうけて育つものです。自己肯定感とは、平たく言うと「自信」です。
自信には、「他人と比べて」育まれる「相対的な自信」と、人とは比べずに自分は自分と思える「絶対的な自信」の二種類あります。言い換えると、周りと比べて「ナンバーワン」であろうとする自信と、比べることのない「オンリーワン」である自分を大切にする自信です。
自己肯定感は主に後者をいいます。この「周りと比べない」自己肯定感こそが、生きていくうえでの土台となります。自分で自分を大切にできること、自分の生き方、存在価値を信じられることです。学校や仕事場など社会では、他人との競争や勝負事が多くなり、どうしても「周りと比べて自分はどうか」という、相対的な自信が問題になりがちです。
一方、親子関係や恋愛・夫婦関係、友人関係は、基本的には一対一の関係です。周りと比べられてがっかりされない安心感、いいところもよくないところもそのまま受け入れてもらえる満足感が、自己肯定感を育ててくれるのです。
恋愛が、自己肯定感を高めてくれるかそうでないかは、その関係が相対的か絶対的か、言い換えると、周りと比べられる不安が大きいか少ないかが一つの大きなカギになります。
1-1.恋愛するの相手の自己肯定感
恋愛関係は、一対一の関係であるため、当然相手の影響を強く受けます。ということは、相手の自己肯定感が高いか低いかも影響してきます。
そして注意したいのは、一対一の「閉じた関係」での姿と、学校や会社などで現れる複数での付き合いの「開かれた関係」とでは、現れ方が異なることがあるということです。
まず、自己肯定感が高い人は、あまり周りと自分を比べることなく、気持ちに余裕がある人です。自分の長所も短所もわかったうえで受け入れられるだけの余裕があり、他人にも気を配る余裕があります。
そして、相手を誰かと比べたりせず、「あなたはあなただよね」とありのままのその人を見ようとします。細かいことにこだわりすぎず、相手にも気を使いすぎない、相手のペースも尊重しつつ、自分のペースも大切にできます。いわゆる、一緒にいてラクな人です。
一方、自己肯定感が低い人は、気持ちに余裕が少なく、何かと周りと比べてしまう人です。その余裕のなさは大きく二つの真逆の現れ方をします。自己肯定できない焦りが自分に向くか、他者に向くかです。
一つは、自己否定が自分に向く傾向が強い人です。自分に自信が持てず、「自分は自分」と中々思えないために、周りにどう思われているかが気になり、人の目が気になります。そうなると、自分のペースよりも、相手のペースを優先しがちです。いわゆる自分軸よりも他人軸の生き方になりやすいということです。
ただ、それは悪いことばかりではなく、相手を大切にするということでもあります。自己肯定感の低さを自覚するがゆえに、相手にやさしくできるということもあるので、こういう人とは平和な付き合いになりやすいです。
以上のような付き合いは、相手を誰かと比べるのではなく一人の人として尊重する付き合い、相手を「オンリーワン」とみる付き合いとなり、自己肯定感を高めてくれる幸せな恋愛になります。
1-2.自己肯定感を下げる彼氏彼女の特徴
付き合っていてつらくなるのは、もう一つの自己肯定感が低いタイプです。
自分に自信がなく余裕がないため、周りにも気を配る余裕がもてない。自分の非を認められず、なにかと他人のせいにしたり、相手を攻撃したりします。
上記で書いた、自己否定が強いタイプの反対で、自己肯定できない焦りが自分ではなく他者に向くということです。
一見、プライドが高く自己肯定感が高い人と思われがちですが、実はその反対で、自分に自信がないから、周りを認める余裕が持てず、強がってしまうタイプです。
「自分は自分でいいんだ」という絶対的な(比べない)自信がもてないために、その穴埋めをしようとして、常に周りと比べる相対的な自信を高めようと必死になります。しかし、比べて得られる自信は、比べない自信の代わりにはならないために、どんなに頑張っても満たされません。
とはいえ、満たされないから、もっと頑張らなくてはと必死に比べる。そんな悪循環になりやすいのです。
また、社会という外の世界を過度に重んじる人にとっては、恋愛・夫婦関係という「閉じた関係」すらも、比較の材料にしようとします。
つまり、他人の彼氏や彼女(旦那や妻)と、自分の相手を比べて、少しでも上に立とうとするのです。自分が劣等感を感じているときは、その劣等感を払しょくするために、他人(配偶者)のせいにして、その人を利用して、少しでも自分の立ち位置を上げようとします。
本来「一番大切にしたい人」である恋人・配偶者を、自分の相対的な自信を高める手段としてみてしまうため、恋人・配偶者はとてもつらい立場になってしまいます。
2.なぜ自己肯定感が低いと、相手を下げて自分を上げたくなるのか
では、そもそもなぜ自己肯定感が低いと、相手を下げて自分を上げたくなるのでしょうか。
自己肯定感が低いと、何かと周りと比べて、自分の価値を確かめようとします。その比べる相手が「外」の場合は、上述のように配偶者も使って、自分を上げようとします。
この比べる対象が配偶者にも向くこともあります。比べて自分が上にいると感じるためには、自分を磨く努力をするか、相手を下げるかの二通りの方法があります。言うまでもなく後者の方が手っ取り早くて簡単です。
このような相手をおろして自分を上げる人とは、対等な関係にはならなくなります。相手は支配・管理されていると感じ、一緒にいると疲れてしまい、自己肯定感が削られてしまいます。このような人とは、距離を置けるならばそうした方がよい場合も少なくありません。
2-1.対策1:自分の気持ちを伝える
では、上述のような一緒にいてつらくなる相手と離れられない場合はどうしたらよいのでしょうか。
このときに大切なのは、「相手が変わる」ことを過度に期待しないことです。出来るなら変わってほしいですけどね…。相手が変わってくれないと自分が変われないと思いがちですが、相手を変えることはできません。
目標は相手を変えることではなく「関係」を変えることです。そのために、まずは自分の言動を変えていくことです。
まずは、自己肯定感を削り合うようなやりとりをやめることです。相手に何かと責められたり攻撃されてもやり返さない。他の人と比べて評価されても、自分は相手を他の人と比べて言い返すことはしない。一対一の「比べない」関係性を目指したいのに、何かと比較してくる相手の土俵に乗らないことです。
かといってやられっ放しもよくありません。言い返すのでもなく、何も言い返さないのでもなく、ではどうすればいいのでしょう。
そんな時は「そんなこと言われると私はつらくなる」など、「アイ(I)メッセージ」で返すのです。
これは、二つの意味があります。
1つは、自分の気持ちを大切にする練習になります。傷つくことを言われて、怒りをぶつけたくなるのも当然ですが、相手に怒りをぶつける「Youメッセージ」は、相手に変わることを求めることであり、自分の気持ちを後回しにすることになります。色々いわれるとつい「あなたの方こそ!」と言い返したくなりますが、これでは「関係性」が変わりません。自己肯定感を高め合う関係とは、自分の気持ちをきちんと伝え合う関係性です。
自分の気持ちを伝えずに、相手への要求だけを伝えるのは押し付け、決めつけと感じやすくなるため、傷つけあうやりとりになりやすいのです。
2-2.対策2:同じ土俵に乗らない(ケンカしない)
もう一つの「I(アイ)メッセージ」で伝えることの意味は、自分が誰かと比較されるようなことを言われても、その土俵に乗らないということです。
自分と相手の一対一の関係の話をしたいならば、相手が何を言って来ようと、こちらの土俵で話をする。相手にわかってほしい自分の気持ちを伝えるのです。「ほかの人と比べるとつらくなる」「比べずに、私のことを見てほしい」と直接伝えてもいいと思います。
自己肯定感が低く、自分にとって不利な話をしたがらない人は、「そんなこと言われても、あの人だって・・・」と他の人と比べて話をそらしたりします。そんな時も「私は、あなたのことを知りたい」「あなたに私のことを知ってもらいたい」と、一対一の関係の話をしたいことを素直に伝えた方が、変に衝突しなくなります。
何より、そういう人は反論すると更に10倍になって帰ってきたりしますが、「そんなことを言われると、さすがに私も傷つく」と自分の気持ちを伝えると、それ以上攻撃しにくくなるものです。
人は、反論してくる人には、更に反論したくなります。また、何も言い返さない人には「この人は攻撃してもいい人」と勝手な誤解をして、調子に乗って更に攻撃してきます。
そのどちらでもない、「私も心を持った一人の人間であって、自分を犠牲にしてあなたに都合よく扱われるために付き合っているのではない」ということをきちんと伝えましょう。
それが、自分を守ることであり、相手を悪者にしないことになります。それはまた対等な関係性を築き、自己肯定感を高め合う関係に修正していくことにもなるはずです。
3.まとめ
自己肯定感は、他者と比べて自分の優位性を確認することで高める「ナンバーワン」の自信と、誰かと比べるのではなくそのままの自分を大切にする「オンリーワン」の自信の二つに分かれることを最初に書きました。
一対一の恋愛関係や友人関係、親子関係の中で育まれるべき「オンリーワン」の自信こそが、心の土台となる本来の自己肯定感です。しかし、比べられることなく、そのままの自分を認めてほしい恋愛関係なのに、他者と比べられてしまうと、それは自己肯定感を削り合うツラい関係になりやすいのです。
この二つの違いと知ることで、パートナーと幸せな関係を築ける方が一人でも増えてほしいと願わずにおれません。