文部科学省の発表によると、令和3年度の小中学校の不登校の生徒は、約24万人だそうです。コロナの影響もあってか、前年度よりも増えていますが、これだけ増えているにもかかわらず、不登校に対する誤解はいまだに根深いものがあります。
今回は、家の居心地がいいと不登校が長引くのか、という声にお応えしたいと思います。
この記事の内容
1.不登校の誤解④家では元気なんだけど…家の居心地がいいと不登校が長引く?
不登校のお子さんがいる親御さんはこのように悩んでいる人が多いと思います。特に子どもが学校を休むようになってから数週間から数か月経ったころに、多いでしょうか。
子どもの状況や家庭の事情をよく知らない外野からの声だったり、「昔は~」と始まりがちな祖父母から、「親の育て方、かかわり方が悪いんじゃないのか」といったプレッシャーをかけられたり。
また、よく聞くのは、「家の居心地がよすぎるから学校にこないのでは?」なんてことを、学校の先生から言われたという声もたまに聞きます。
ようやく最近、親も子どもも、学校にいけないという事実を受け入れ、まずは子どもが家で元気に過ごせることを目指そうとした矢先だったりすると、なおのこと「この方針じゃいけないのかな?」「家の居心地を悪くしないといけないの?」と不安になります。
結論から言うと、「家の居心地がいいと不登校が長引く」というのは間違いです。
これは言い方を変えると、「家から引っ張り出して、有無を言わさず登校させればいい」という意見ですよね。
意図としては「学校にいけない方が、将来の進路が狭まったり、本人が後々苦労するだろうから」という親切心からだとは思います。しかし、その親切心も、子ども自身の気持ちに寄り添えていなければ、「大きなお世話」となり、むしろ、子どもを追い詰めることになりかねません。
これがなぜ間違いなのか、理由も含めてよく知っていただきたいと思います。
2.家にもいられないと、「世界」に居場所がなくなってしまう
家の居心地がよくて、安心して過ごせる場所であることは、不登校になるほど傷ついている子どもが回復するために絶対に必要な条件です。
人は、安心できる場所、ゆっくり過ごせる場所、リラックスして自然体で過ごせる時間がないと、心身の疲れが取れず回復しません。
子どもにとって、「家と学校」はこの世界のほぼすべてです。それ以外の世界をまだあまり経験していませんし、実際に過ごす時間も「家と学校」がほとんどです。
その一つである「学校」に行けなくなったということは、子ども自身にとって大きな苦悩であり、傷つき体験であるはずです。特にHSCは「本当はいかなくちゃいけないとは思うけど、どうしてもいけない」という葛藤があったはずです。
そして、残された場所が「家」ですから、そこすらも居心地が悪くなってしまったら、それはその子にとって「この世界に自分の居場所はない」というほどの孤独を与えかねません。
そうなると、自分の部屋に引きこもったり、「もう死ぬしかない」とまで追い詰めることもあります。
子どもは、学校に行くために生まれてきたのではありません。「生まれてきてよかった」と喜んでくれるような生き方をしてもらうために、学校は絶対必要とまでは言えないはずです。
「家の居心地がいいから~」という人は、そんな追い詰めるつもりはないと思いますが、結果的に「この世界の居場所を奪う」ことになりかねないことは、知っておく必要があると思います。
そこまでいかないにしても、家の居心地が悪くなるということは、親子関係が悪くなるということです。親子関係を犠牲にしてでも、学校に通わせることが必要なのでしょうか?
3.なぜ「普通に接する」ことが、家の居心地がよさになるのか
では、家の居心地がよいと、早く再登校できるようになるのでしょうか。
まず「居心地がよい」とはどういうことか、考えてみたいと思います。居心地がよい家のイメージは、「日曜日の家庭」です。休みなので家にいていい。それぞれ好きなことをしていていい。
不登校だからと言って、「せめて生活リズムはしっかりしなさい」と厳しくされたり、反対に過度に気を使われて腫れ物に触るような接し方をされるのも、居心地がよくありません。
「普通に」話しかけたり、接しあうのが、「居心地のいい家庭」ではないでしょうか。
「普通に接してもらえる」ことは、「普通のことができていない」と本人が感じているときには、特別な意味が生まれます。
「普通に学校にいけない自分は、普通じゃないんだ、ダメな子だって親にも思われているに違いない」と自分で自分を責めがちなとき、「普通に」接してもらえると、「学校に行けてもいけなくても、あなたは変わらず大切な存在だよ、何があっても家族はあなたの味方だよ」というメッセージになります。
周囲の状況が変わってしまっているからこそ、「変わらないでいてくれる」ことが、大きな安心感となり、それが回復の土台となるのです。
「こんな自分でも、変わらずに愛してくれるんだ…」これほどうれしい、頼もしい経験はありません。存在していることそのものを認めてもらえることを「存在の自信」といいますが、これは生涯にわたって心の支えとなりうる貴重な経験だと思います。
不登校の子にとって、家の居心地がいいということは、ただ休むためのみならず、貴重な心の成長の機会になりうるのです。
4.まとめ
親や大人の顔色を察するのが得意なHSCにとって、本当の意味で「家の居心地」をよくするのは簡単ではないと思います。
また、不登校とは単なる挫折体験ではなく、多くの人が経験していないことを学ぶ機会でもあります。一見、レールから外れてしまったようで、この子の将来はどうなってしまうのかと不安にもなると思いますが、他の子と違う道を通っているだけとも言えますよね。
何はともあれ、まずは元気にならなければ始まりません。将来も大事ですが、今はもっと大事です。元気にさえなれば、未来を切り開くことはきっとできます。
家でしっかり休んで、背伸びせずに生きていける子どもたちが増えることを願っています。
【参考文献】
【1】明橋大二著、教えて、明橋先生!何かほかの子と違う?HSCの育て方Q&A