不登校を乗り越えるために②目標は「元気になること」

前回は、不登校からの回復のプロセスを3段階に分けて説明しました。

不登校を乗り越えるために~回復のプロセス~

今回は、少し違う角度から見てみたいと思います。

1.不登校を乗り越えるために~最初の目標は「元気になること」

 

 

 

 

高木英昌
児童精神科医です。自分を知ることで楽に生きられる人が増えることを願っています。

不登校を乗り越えるためには、何を目標にするかも大切です。

「目標は再登校じゃないの?」と思われるかもしれませんが、「再登校」は、あまり適切な目標とは言われません。これは「学校に行けさえすればなんとかなる」という発想になりやすく、子どもが無理をしやすくなり、しんどい目標です。そして無理して再登校しても長続きしません。

では、何を目標にすればいいのか。それが「元気になる」ことです。「元気にならないと何も始まらない」。結論としては、この一言に尽きます。

本来子どもというものは「わがまま」に、「元気で」「好きなことをする」ものですよね。それが様々な事情で、疲弊してしまい、不登校という結果となると、家で「何もしたくない」「何もできない」という状態になったのだと思います。

2.不登校の子が元気になるために必要なこと

不登校になった、子どもたちが元気に回復するためには、主体性を取り戻すことが必要です。では主体性とはどんなことでしょうか。もう少し掘り下げて考えてみます。

本人が「これをしたい、あれをやりたい」と思えて、行動にも移せる、必要なら周りの助けを求められる。

このような主体性こそが「生きる力」ではないかと思います。

つまり、

  • 意欲
  • 行動力
  • 援助希求力の回復

この3点が主体性を支えるポイントです。

主体性が失われた状態とは、どういうことかを考えるとわかりやすいですね。

  • 自分が何をしたいかわからず、自分で決められない
  • 指示待ちになって、言われたことしかやらない、やれない

自分で考えての行動ではないと、失敗したときに他人のせいにしがちです。

不登校になる子は、空気を読んで「(しんどくても)学校に行かなければ」「休みたくても、休んではいけない」など、自分の本音をいえず、自分のペースで過ごせていないことが少なくありません。

自分のペースで過ごせないということは、他人に合わせているということです。自分軸を持てるか、他人軸で生きるか。これは「環境」と「経験」が大きく関係してきます。

周囲が「自分の意見や気持ちを尊重してくれる」という経験が多いほど、自己肯定感も育まれ、主体性をもって生きていきやすくなります。

一方、自分の意見を言いにくく、言えば叱られたり反対される経験が多いと、自己主張は控えるようになり、周りに合わせるばかりの疲れる生き方になりがちです。

そういう意味では、不登校は「それまでの生き方だとしんどすぎた。生き方を見直す必要がある」というメッセージでもあります。

そこで、次に意欲、行動力、援助希求力の回復、この3点について考えてみます。

2-1.意欲の回復

主体性の回復の第一歩は、本人が「あれをしたい、これをしたいな」と思えるように意欲が回復してくることです。疲れてくると、意欲自体が失われてしまうからです。

意欲を回復させるためには、何かをしたい気持ちを否定されない、制限されないという「安心、安全」な環境が必要です。ダメだしされないということですね。

疲れているときは、ダラダラしたい、何もしたくない、ボーっとしていたい、こういった本人の気持ちもまるごと尊重する。まずは、なんでもいいから「〇〇したい」という気持ちがあること自体が大切、ということです。

2-2.行動力の回復

休むことで疲れが取れて、意欲が回復してくると、実際に行動したくなります。最初は自分の部屋でゲームをしたり、動画をみたりであっても、意欲の回復に伴って、徐々に行動範囲が広がってきます。

居間で家族と過ごす時間が増えてきたり、外に出かけるようになってきたりもしてきます。ちゃんと休んで充電されてくると、エネルギーを使いたくなってきます。

この「行動」は、必ずしも「体を動かす」こととは限りません。人によっては、文章を書いたり、絵を描いたり、内面世界が豊かになっていく、それも行動力の回復と言えるでしょう。

2-3.援助希求力の回復

やりたいことがでてきて、実際に行動に移してみると、自分一人の力だけではうまくいかないこともでてきます。そんなときに、誰かの助けを借りることが必要になります。この援助希求力は、生きていくうえで必要不可欠です。これは環境を整えるということでもあります。

困ったときは、ちゃんと人に頼れるようになるためには、本人の努力も大切ですが、それ以上に周囲がきちんとそのSOSを受け止めることが大切です。

特に子どものうちは、自分からSOSを出せないことも少なくありません。「困ったときはちゃんといいなさい」と叱るのは簡単ですが、そうできなかったから困ってしまうわけです。

その場合は、まずは「助けてもらえてよかった」と本人が実感できる経験が必要です。その第一歩が「話を聴いてもらえてよかった」という経験です。

この「自分の話をちゃんと聞いてもらえる」という経験は、「自分のことを大切に考えてくれている」という存在の自信にもつながります。

途中で話を遮られず、最後まで聞いてもらえる。相づちや、目を見て、しっかりと聴いてもらえていると実感できると、それだけでうれしくなり、元気が出てきます。

話を聴いてもらうということは、自分のために時間を取ってもらうということでもあります。物やお金よりも、子どもは親と一緒にすごす時間をうれしく感じます。それが、親のみならず、人への信頼となり、困ったときは助けてもらえるんだ、という自信につながっていきます。

3.まとめ

意欲、行動力、援助希求力の回復は、回復のプロセスとも関連してきます。

  1. 休養期は、意欲の回復
  2. 充電期は、行動力の回復
  3. 援助期は、援助希求力の回復・訓練

不登校からの回復は、単に休んでまた学校に行けるようになることではなく、一皮むけて、人間として成長する貴重な機会でもあります。

学校を休みたいと思うほどのつらい経験をしたにも関わらず、それを乗り越えるのです。望んでする経験ではないとはいえ、学校に通う中では経験しがたい学びがきっとあります。

家族で一緒に、焦らず、自分を大切にする生き方を見つけていただきたいと思います。