不登校の誤解① 義務教育って誰の義務?

子どもにとって「学校」は大きな悩みとなりやすい場所ではないでしょうか。

理由はいろいろあると思いますが、その一つに、「行かなければいけない場所」というイメージが社会にあるからだと思います。

それはそうですが、これが高じて「どんなにツラくても」行かなければいけない場所、という拡大解釈になると、話が変わってきます。

これが不登校を増やしてしまう一因にすらなっているのではないかと感じます。

今回は、「義務教育」について考えてみたいと思います。

1.義務教育って誰の義務?

高木英昌
児童精神科医です。自分を知ることで楽に生きられる人が増えることを願っています。

「義務教育」と聞くと、「子どもが」学校に行く義務と思っている人は少なくないのではないでしょうか?私もそうでした。「子どもは学校に行くのが仕事」という言い方もされますよね。

しかし、実は義務教育とは、子どもの義務のことではありません。

『こども六法』の著者である山崎総一郎さんは、次のように言われています。

学校に行かないことは、法律違反ではありません。学校に行くことは「義務」ではなく「権利」なのです。子どもを学校に通わせることについて、義務があるのは親や学校の先生のほうです。
日本国憲法第26条には次のように記されています。
「すべての国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ」
どういうことかというと、子どもが「教育を受けたい」と思ったとき、大人にはその子のために学べる環境を整える義務があるという意味です。それは「行きたくない」と言っている子どもを、無理やり学校に引きずっていくという義務ではありません。
そうではなくて、むしろ大人には、子どもが自分から「行きたい」と思えるような、魅力的な場所に学校を変えていく義務があるのです。
(山崎総一郎著、『10代の君に伝えたい 学校で悩むぼくが見つけた未来を切りひらく思考』、2021年、朝日新聞出版【1】

まずは、この誤解を解くことで、気持ちが楽になる子や親御さんは少なくないのではないでしょうか。

特に「ルールや決まりごとは守らなくちゃ」と真面目に受け止めるHSC/HSPにとって、「義務教育」の正しい意味を知ることは大きな意味があると思います。

2.「学校は行かねばならない」という呪縛からの解放

学校関連の法律でいうと、2017年2月より施行された『教育機会確保法』も知っておきたいものの一つです。

不登校となっても、教育の機会は大切ですので、学校以外の場所で教育を受けやすいように支援するための法案です。

これは国が「学校以外で勉強するのもアリだよ」「つらいのにムリして行く必要はないんだよ」と認めてくれたということです。

教育機会確保法の13条には「個々の不登校児童生徒の休養の必要性を踏まえ」ともあります。【2】

そして「学校以外で学習のできる環境」として、公的な機関では教育支援センターが、民間の機関ではフリースクールが、学校以外で学習のできる環境に相当する場所としてあげられます。

あるいは、自宅で学ぶホームスクーリングも最近はよく聞くようになりました。

本来の義務教育の意味の通り、学校以外でも教育を受けたい子どもには、教育を受けられるような環境を整えようという流れが進んできているということです。

学校がしんどくなればなるほど、「でも、学校は通わなければいけないところ」と、呪縛のように休むことへの後ろめたさや罪悪感がのしかかってきます。

それが、こういう法律レベルで解放してくれるのは大変有難いですよね。

とりわけ環境の影響を受けやすいHSCにとって「環境は選んでいいんだよ」というこの流れは、喜ばしいことだと思います。

3.まとめ

子どもにとっての学校は「行かねばならない義務」ではなく、「ツラければ学校以外の場所で勉強してもいい」のです。

こういう選択肢がちゃんとあるにも関わらず、意外と知られていません。

もちろん、学校に行けるのであれば行った方が楽しかったり、用意された道を歩める安心感もあると思います。

しかしそれは「権利」であって「義務」ではありません。その権利を使うかどうかは自分で決めていいのです。

「学校時代の方が、大人になってからよりもしんどかった」というHSPの声は珍しくありません。

そういう声も踏まえて、これからのHSCのために、子ども時代が過ごしやすくなるような環境を整えていければと思います。

【参考文献】

【1】山崎総一郎著、『10代の君に伝えたい 学校で悩むぼくが見つけた未来を切りひらく思考』、2021年、朝日新聞出版

【2】「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律(概要)」文部科学省